再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
ここは田舎の公立病院。
とはいえ県内屈指の規模を誇り、ベット数は500越でヘリポートも完備した総合病院だ。
急性期を経営の中心に見据えた病院は症例も豊富で、手術件数も多い。
そのおかげか、都会からわざわざやってくる研修医も少なくないらしい。

「お疲れ、環ちゃん」

食堂の隅っこでコーヒーを飲んでいた私に、白衣の男性が声をかけてきた。

「副院長」
「疲れた顔しているね」
「・・・すみません」

この病院で私のことを下の名前で呼ぶのは2人だけ。そのうちの一人がこの人だ。

「最近は帰りも遅いし、土日もよく呼び出されているらしいね」
「ええ、まあ」

でも、若手の勤務医なんてみんな同じようなものだと思う。

「無理するんじゃないよ」
「はい」

小鳥遊副院長は亡くなった父の親友だった。
医者になった副院長と会社勤めをしていた父は会う機会も多くなくて、大人になってからは年に一度会うかどうかの間柄だったらしい。
だから私も副院長のことは全く知らなかった。

「来月、命日だろ?」
「ええ」

来月6月10日は両親の命日。

「もう、10年経つんだな」
「そうですね」

私の両親は、私が大学に入った年に交通事故で亡くなった。
雨でスリップしてきた対向車が突っ込んできて、2人とも即死だった。
この時、「人は死ぬんだ」と私は実感した。
それからは必死に勉強して医者になることだけを考えた。
六年後無事大学を卒業するとともに医者になり、「ああこれで人生開けるんだ」と思っていたのに・・・
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