エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
 その後、一軒目のジュエリーショップを後にして、他に二軒ほど見て回った。

 どのブランドも個性があり、素敵で試着するたびにドキドキしていたけれど、一軒目のあの指輪に対する思いがずっと残っていた。

 予定していた店を見終えた今は午後二時半。

 文くんが腕時計に目を落とし、ばつが悪そうに言う。

「立て続けに三軒付き合わせて悪い。予約時間が他に空いてなかったから……大丈夫? すごく遅くなったけど、どっかに入って昼にしよう。お腹空いてるだろう?」
「うん」

 笑顔で返すものの、実はあまり空腹感はなかった。
 というのも、三軒目に入る辺りから、なんだかお腹の調子がよくなかったためだ。

 それでも、こんなに楽しい時間を逃すのは勿体ないし、私がお腹が痛いだなんて言えば、文くんは過剰に心配しそうだったから。

 他に気を向ければまだごまかせそうな痛みだし、きっとそのうちよくなる。いつもそうだし、大丈夫。

 そう自分に言い聞かせていると、文くんのスマートフォンが鳴り始めた。

 私は文くんと顔を見合わせて、ひとつの予感を抱く。それは多分、文くんも一緒だった。

「ごめん」
「ううん。あ、あっちに移動しようか。ここ、人通り多いし」

 スマートフォンの着信画面を確認した直後、言葉少なに謝る彼から察するに、やっぱり仕事の電話だと確信した。

 私は空いているショーウインドウの横を指さし、一緒に移動する。

 文くんが通話している間、聞き耳を立てるのはよくない気がして、なにげなく辺りに視線を巡らせた。
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