エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
 大通りを挟んだ向こう側にも華やかなショーウインドウ。
 行き交う人々も心なしかうきうきしている雰囲気に思える。

 街中がクリスマス一色なのを改めて感じて、じんわりと温かな気持ちに包まれた。が、それに反して冬の寒さに堪えたのか、徐々に腹痛が強くなっていく。

 生理が近いのかも……。と言っても、ずっと不順だから全然予測できない。
 やだな。せっかくのデートなのに。早く治って。

「ミイ? どうした?」

 気付けば電話は終わっていたらしく、文くんに顔を覗き込まれる。意識が別にいっていた私は、慌てて手を振った。

「な、なんでもないよ。あっ。電話、大丈夫だった?」
「ん、それが……大丈夫じゃなくなった。ごめん」

 言いづらそうに肩を落として謝る文くんに、私は複雑な思いになった。

 デートが強制終了してしまう残念な気持ちと、徐々に体調不良になってきていたからちょうどよかったと安堵する気持ちと両方だったのだ。

「そっか。仕方ないよ。それより急いだ方がいいよね? 一回家に帰る? まっすぐ職場に行くの?」
「そうだな。家でちょっと準備してすぐ出る」
「そっか。地下鉄? 急いでるならタクシーかな?」
「ミイ」
「え?」

 私が通りへ一歩踏み出そうとするや否や、文くんは私の肩を掴んで引き寄せた。
 ビルの外壁に押しやられてびっくりしている間に、彼は周りから見えないようにキスを落とす。

 私が瞬きも忘れ、まるで時間が止まったみたいに固まっていると、文くんは壁に片腕をついて私を覆い隠したまま、頭上で小さな声を零した。

「……ごめん。今、気持ち切り替えるから」

 彼の身体に今にも触れそうで触れないギリギリの距離で、彼がぽつりと漏らした言葉に胸の奥がきゅうっと鳴る。
 油断したら、公共の場というのも忘れて抱きついてしまいそうだった。

 私が必死で冷静さを保っていると文くんはおもむろに距離を取り、「行こうか」といつもの優しい笑顔を浮かべた。
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