外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「ここ、来てみたかったんです。なかなか来る機会がなくて」

「美鈴の仕事柄、すでに来たことがあるかもしれないと思ってたけど。初めてなら良かった」

「今って、あの有名なネモフィラが見られる時期ですよね?」

「ああ、そうみたいだな。俺もネモフィラの時期は初めて来る」


 何気ない会話の晶さんの返しに、耳がピクリと異常な反応を示す。

 ということは、晶さんはここを訪れるのは初めてではないということ。違う季節に来ているのだ。

 そう思って自動的に頭の中に浮かんだのは、この間なぜだかマンションの下で見かけたあの女性のこと。

 結局あのあと、晶さんに彼女をマンションの下で見かけたことは言えていない。

 もしかしたら、あの彼女と来たのかもしれないと思い始めると心がモヤモヤとし始めてしまった。


 駐車場に着いて園内に入ってから、公園内を巡回するパークトレインに乗車した。

 春らしい過ごしやすい陽気で、優しい太陽の光が心地いい。

 ネモフィラは公園内でも少し標高のある丘の上一面に咲き誇っていて、その近くの停留所でトレインを降車した。

 先に降りた晶さんは降り口で私に手を差し伸べてくれる。

 変わらぬ気遣いに胸をときめかせながら、その手に自分の手を乗せた。

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