過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
目が覚めて、自分のおかれた状況に呆然としてしまった。
隣を見れば、昨夜たしかに会話を交わした覚えのある男が横たわっている。そして体の怠さが彼との情事が現実だったことを訴えてくる。

彼が寝ている間にと、脱ぎ捨てられた衣類を急いで身に付けていく。そのまま音を立てないように部屋を出ると、小走りに廊下を駆けた。そのとき目にした、〝ホテル・アローズ〟の文字がやけに目について頭を離れない。

逃げるようにして外に出ると、急いでいアパートに戻って出勤の準備を整えた。
昨夜はどれほど飲んだのだろうか。頭痛に顔を歪めながら、雑な仕草で白い錠剤を口に放り込む。
ここはもうすっかり馴染んだ自分の部屋だ。自身のテリトリーにいると安堵はしているものの、落ち着きは取り戻せていない。

やってしまった。会ったばかりの見ず知らずの男性と一夜を共にするなんて、これまでの自分ならあり得ない。
唯一の救いは――そんな割り切った言い方はまだできないけれど――朔也に別れを告げられた後の出来事で、浮気にはならないタイミングだったというぐらいだ。
とはいえ、こんなときでもなければ見ず知らずの男性に身を任せるなどしなかっただろう。
不毛な言い訳を幾度となくしながら、ばたばたと職場へと向かった。

昨日はあまりにも疲れ切った顔をしていたせいで、残らず帰るように促されていた。それなのに、しっかり休めたと思われている今朝も、やはりどこか沈んで見えたのだろう。私の顔を見ると、周りは遠慮がちに接してくる。
私情で仕事仲間に迷惑をかけてはだめだとわかっている。でも、なんとか気持ちを切り替えようと頑張ってみてもうまくいかず、いつもよりずいぶん効率が落ちているのは明確だ。

元来、仕事となれば何よりも夢中になれる私でも、さすがにここ数日のうちに起きた出来事の衝撃は大きすぎた。何とかミスは犯さなかったものの、精神的にはギリギリの状態だ。

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