過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
脱力して呆然としている間に準備を済ませたであろう拓斗は、すっかり乱れた私の髪を梳きながら抗いがたい誘惑をしてくる。

「美香が欲しい」

今さら拒むはずがない。ぽっかり空いた心の隙間を、今すぐ埋めて欲しいと思ってしまったから。
彼と視線を合わせると、ゆっくりと頷いた。

弱みに付け込まれたと言われたら、その通りかもしれない。
それでも、今夜はひとりになりたくないと望んだのは自分だ。

久しぶりの行為のせいか、体を暴かれる感覚に一瞬顔をしかめたことに彼が気づいたようだ。拓斗はあやすように頬をなでて、惜しみなく口づけを与えてくる。それに気を取られているうちに、いつの間にかひとつになっていた。

「美香、好きだ」

掠れた声で何度も呼ばれ、体と共に心まで揺さぶられていく。
戯れに囁かれる愛の言葉が、なんとも心地よい。

けれど、それはこの場限りのものだと、もうあるのかないのかわからないほどになった理性が訴えてくる。

「美香」

私を抱き込む彼の手はどこまでも優しいのに、何かが違う。
快楽に溺れ切った中でも、これだけははっきりと感じた。

私が求めていたのはこの声じゃない。

『ごめんなさい』そう心の中で呟いたのは、何に対してだろうか。自分でもわからない曖昧な気持ちのまま、ゆっくりと意識を手放していく。

閉じた目からこぼれた一筋の涙が、かりそめの愛を与えてくれた拓斗の唇に吸い取られていくのを感じながら。

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