過保護な御曹司の溺愛包囲網～かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです～

もくもくと作業をしていると、気づいた頃にはあっという間にお昼の休憩時間になっていた。今日は簡単なものを買ってきて、ここで食べながら作業をしようと、貴重品を持って部屋を出る。

ふと肌に感じたいつもと違う雰囲気に、そういえば来客があるのだったと思い至った。午前中だと言っていたし、もしかしたらまだ帰られていないかもしれない。辺りをぐるりと見回して、驚きで足を止めた。

「え？」

思わず小さな声が漏れてしまい、急いで口元を押さえた。

うそでしょ……。

背の高さがひときわ目立つスーツ姿の男性を目にして、体が硬直した。
大いに見覚えがある。顔を合わせていたのが終始薄明りの下だったとはいえ、あんなに人目を惹く容姿の人を見間違えるはずがない。

そこにいたのは、あの日初対面で一夜を共にしてしまった拓斗に他ならなかった。

幸いにも、私のいる方に半分背を向けた状態で社員と話している彼は、こちらに気が付いていない。
見つかる前にこの場を後にしないと。急いで身を翻し、目立たないようにそっと抜け出そうとしたそのとき。

「美香！」

聞き覚えのある声に、ビクッと体をこわばらせた。
振り向きたくない。ここで目が合えば、私があの夜を一緒に過ごした女だと確信されてしまう。いや、名前を呼んだ時点でばれているのだろうけれど。