呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 室内にからりとした風が入ってきてカーテンがはためき、頬に冷たい空気が当たる。
 窓の外からは彼が育てているバラの樹がその姿を覗かせていた。樹には蕾がたくさんついていて、もう少しすれば花が開きそうだった。
「一般的にバラを育てるのが難しいとされているのは、病や害虫の被害に遭いやすいとされているからだ。バラはそれらに耐え忍び、大輪の花を咲かせる」
 クリスは手招いてエオノラに隣に来るよう促した。
 エオノラは素直に彼の隣へ移動すると、クリスと同じように庭園のバラをじっくりと眺める。

「エオノラはまだ社交界デビューをする機会が残されている。このバラたちと同じように、花開き輝く日が必ず来る。それまで焦らずゆっくり、やっていけばいい」
 激励の仕方がなんとも彼らしい。自分はまだただの蕾で、準備期間だと思うと不思議と頑張れる勇気が湧いてくる。
 エオノラは胸に手を当てて頷くと、彼に向かって微笑んだ。
「クリス様、ありがとうございます。私、胸のつかえが取れた気がします」
「そうか。――――顔の腫れもマシになったから今日はもう帰るといい。私も屋敷に戻る。……正門まで送ろう」

 差し出された手にはまっている、腕輪の琥珀から弦を爪弾くような音が聞こえてきた。穏やかで低い音から、琥珀が安堵していることが分かる。
 エオノラが手を取って顔を上げると彼と目が合った。
 ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、投げかけてくる眼差しはどこまでも優しかった。

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