呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 前日に練習する時間をゼレクが設けてくれる手はずになっているが、暫く踊っていなかったので不安だった。なのでクリスの提案はとても嬉しい。
 しかし、どうしても緊張してしまう理由が一つある。
「私、兄以外の男性と踊るのは初めてで。もしかしたら足を踏んでしまうかもしれません」
「踏まれたとしても別に構わない。当日は悪い噂を流した男たちの足を存分に踏みつけなくてはいけないのだから良い練習になる」
「も、もうっ、クリス様ったら……」
 意地悪を言われて気色ばむエオノラだったが、クリスの目は笑っていなかった。

「……クリス様、そんな陰湿な方法では余計に私の評判が下がります」
 真剣な表情で答えれば、クリスが吹きだして表情を緩めた。
「それもそうだ。あなたは正々堂々としていればいい」
 気を取り直して二人はワルツを踊り始めた。音楽はないのでクリスが知っている曲を口ずさんでくれる。それに合わせてエオノラはリズムを取り軽やかに踊ってみせた。

 その後踊ったのは宮廷舞踏会で定番となっているカドリールやポルカだ。
 一通り踊って心地良い疲れを感じながら、エオノラはクリスに連れられてベンチに腰を下ろした。
「ダンスが上手だな。これだけ踊れたら充分だろう」
「いいえ、クリス様のリードが良かったんです。こんなに踊りやすい相手は初めてです」

 侯爵というだけあって、クリスのダンスは隙がなく完璧だ。それでいてこちらが踊りやすいよう配慮してくれる。エオノラが上手いのではなく、これはクリスのお陰だと言っても過言ではなかった。
< 129 / 200 >

この作品をシェア

pagetop