呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「我はこれまでかの土地を浄化するために力を使ってきた。だが、一つだけ足りない力があったのだ。我には生涯の伴侶である番がいない。番を愛するということを知らない。従って罪源をすべて浄化することは不可能だった」
 罪源は七つあり、愛の力を持っていなかった狼神は残りの一つの浄化に困難を極めた。そうこうしているうちに力を使い果たしてしまったのだという。

「残った罪源は必ず厄災を引き起こし、混沌の世界を作り上げる。それを阻止するために我は王家の人間へ呪いという形で、その身に罪源を宿らせることにした。我の屍を養分として生まれたルビーローズには我の浄化の力が僅かに宿っている。呪われた者を心から愛する人間の血をルビーローズに与えることで、愛の力を補填し、呪いが解けるようにしたのだ」
「愛する者の血……私、狼神の最後の言葉やルビーローズの言葉から命を捧げる必要があるとばかり思っていました」

 驚いた狼神は声を荒らげた。
「愛する二人を引き離すなどとんでもない!! 嗚呼、息絶える寸前で話したからうまく伝達がいっていなかったのか。……どうも面目ない」
「いいえ私の方こそ、とんだ勘違いをしてしまったみたいです!」
 てっきり血というのは婉曲的な表現で、呪いを解くには命を差し出す必要があると考えていた。祖母は先代侯爵と友人関係のようだったから、自分の命を差し出す勇気はなかった。だから日記帳で謝罪していたのだと思っていたが、それは正解ではないようだ。

「……お祖母様のは友愛だったから、ルビーローズに血を捧げても呪いを解くことができなかったのね」
 今ならどうして祖母が謝罪し、右足の怪我を罰だと言っていたのかが分かる。もし祖母が先代侯爵を愛していたら彼の呪いは解け、まっとうな人生を歩めた。次の世代であるクリスが呪いを受けることもなかった。
(恐らくお祖母様は……その時既にお祖父様のことを愛していたのね。だから呪いを解くことができなかった)
 だがエオノラの場合は婚約者だったリックと婚約を解消し、愛する相手がいなかった。

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