呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 王宮の大広間には大勢の貴族たちが集まっていた。その中でも第三王子のフェリクスが復帰するとあって未婚の令嬢たちは色めき立っている。
「第三王子殿下のフェリクス殿下って一体どんなお方なのかしら?」
「第二王子殿下のハリストン殿下は凜々しくて素敵ですけれど、仕事一筋なところが玉にきずですのよね。どんなに令嬢に言い寄られても靡かないんですもの」
「そう考えるとフェリクス様にはいろいろと期待してしまいますわねえ」
 令嬢たちは様々な想像を膨らませていた。

 彼の心を射止めることができれば、地位も名誉も手に入れられる。
 何せこれまで心を病み離宮でひっそりと暮らしてきた王子だ。右も左も分からないと高を括っているに違いない。
 ゼレクと大広間を歩いているといろいろなところでそんな声が聞こえてくる。
(フェリクス様は社交界から離れていたけど、無知な人じゃないわ)
 好き勝手なことを言う彼女たちの話に内心エオノラは不機嫌になった。

「あ、いたいた。やっと見つけたわよ」
 むくれていると人混みの中からシュリアがひょっこりと顔を出す。
「まあ、シュリア!」
 エオノラは気を取り直して笑顔になった。
「このところゼレク様を独り占めしてごめんなさいね。体調はもう大丈夫?」
「もうすっかり。こちらこそお兄様が長い間相手をしなくてごめんね」
「もう充分二人の時間を過ごしたから満足しているわ。だから今度はエオノラとの時間をもらわないとね」
 シュリアが陽気な調子で冗談を口にする。

「そんなことを言って……俺との時間をもっと取ってくれよ。寂しかったんだから」
 ゼレクはやれやれというように両手を挙げた。
 二人の様子にくすくすと笑っていると、入り口の方からさざ波のように歓喜の声が上がった。その声に反応して振り向くと、黒色の騎士服に身を包んだ近衛騎士たちが現れ、その後に王族が次々と登場する。

 国王夫妻に続いて二人の王子が姿を現した。一行が落ち着いた色合いの正装で登場する中、最後に現れた第三王子のフェリクスだけは異なっていた。
 金の刺繍が入った真っ白な正装に身を包み、袖にはひし形のダイヤモンドのボタンが付いている。
 軽装姿に見慣れていたエオノラは初めて見る彼の正装姿に見入ってしまった。
 普段ですら眉目秀麗で美しいのに、身に纏っている衣装がより一層彼を美しく引き立てている。

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