呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 正門前を通り過ぎて角を曲がってしまえば、その先は緑豊かな野原が広がっていて、春の訪れを告げるキンポウゲが一面に咲いているはずだ。
(野原の風に当たれば少しは沈んだ気持ちも晴れるわよね)
 落ち込んだ際はいつも屋敷の中庭の自然に囲まれて気分をリフレッシュさせていた。しかし今回は中庭さえも近づきたくない場所となってしまっているので場所を変えるしかなかった。
 死神屋敷の角にさしかかった時、そよ風が屋敷の方から吹いてくる。不意にこの間と同じリンリンという鈴に似た音が聞こえてきた。

 無意識のうちに耳が音を拾ってしまい、足が止まってしまう。その音が助けを呼んでいるような気がして仕方がなかった。
(石が伝えたいことを理解できるのは私だけ。本当に無視して良いの?)
 悩めば悩むほど、自分を必要とする石のために動きたい気持ちが募っていく。

 エオノラは、振り返ると死神屋敷を仰ぎ見た。
 今日は正門はしっかりと閉まっていたが、この間狼に教えてもらった秘密の抜け道を使えば、また庭園へと辿り着けるだろう。

(だけどまた勝手に庭園に侵入なんかしたら、今度こそ侯爵と顔を合わせることになるかもしれない)
 それに前回見逃してくれた狼が牙を剥くかもしれない。
 躊躇していると、弱々しい音がエオノラの耳に再び届いた。あまりに悲痛な響きを、これ以上放っておくのは耐えがたい。
(こんなに悲しい音を出して助けを求めているんだもの。……やっぱり、放ってなんておけないわ!)
 使命感に駆られ、狼に教えてもらった抜け道を使って死神屋敷の庭園へと向かった。

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