呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「勝手に屋敷に入ってしまい申し訳ございません。私はこの近くに住むエオノラ・フォーサイスと申します」
 早口で謝罪と挨拶を済ませると、呆気にとられた様子の青年が口を半開きにして瞠目している。

「……どうしてあなたは怯えないのですか?」
 その問いに今度はエオノラが口をぽかんと半開きにする。
「お、怯える? どうしてですか?」
「訊いているのは私だ。質問を質問で返さないでくれます?」
「も、申し訳ございません」
 何故咎められているのか理由は分からないが一先ず素直に謝った。
「質問を変えますが、あなたは私の姿を見て怖いと思わないのですか?」
「怖い、ですか?」
 エオノラは、ぱちぱちと目を瞬いて首を傾げた。


 目の前の青年は見目麗しい容姿をしている。社交界に出ればたちまち注目を浴び、令嬢たちからは秋波を送られるだろう。そんな彼を決して怖いとは思えない。
「あなたは怖くありません。確かに怖いくらい綺麗な容姿ではあります、けど……?」
「は?」
 青年は驚いたように目を見開いた。次に表情から笑みを消すと、じりじりと間を詰めるようにエオノラに寄ってくる。

 青年から逃れるようにエオノラは後ろへと下がったが、樹木に行く手を阻まれてしまった。さらに青年が樹木に手を付いて、完全に逃げ場はなくなった。
「フォーサイス家のご令嬢と仰いましたか? あなたはここがどういう場所かご存じですよね?」
「はい。もちろん存じております!」
 尋ねられたエオノラはこくこくと頷いた。
 すると青年は不審そうに片眉をぴくりと動かした。
「……失礼ですがお嬢様は倒錯的な性的嗜好をお持ちですか?」
「はい!?」
 突然何を問われたかと思えば、それは見事に不躾な質問だった。

 社交界デビューもまだであるエオノラには刺激的な言葉の響きだ。羞恥心で頭のてっぺんから耳の先まで瞬く間に真っ赤になった。
「私、そんな趣味は持っていません!!」
 半ば叫ぶようにして否定すると、青年が乾いた笑みを浮かべる。

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