呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 クリスフォルス――クリスはエオノラから離れると艶やかで優雅な所作で挨拶をする。
 見とれていたエオノラは一瞬の沈黙を経て、吃驚した。
「……ええっ!?」
 漸くエオノラは彼の今までの発言を理解した。


 ラヴァループス侯爵は醜い顔をしている。もしもそれを好む人間がいて、どうしても侯爵の顔を見たいとすれば?
(さっきから変なことを訊かれると思っていたけど、そういうことだったのね。でも、侯爵の顔は醜いどころか、眉目秀麗だし。杖をつく老人どころか青年だわ)
 さらにもう一つ気づいた点がある。

「そういえば、侯爵様の顔を見た人間は死んでしまうって言われているけど、私はまだ死んでないわ……」
「噂の最後のくだりはただの噂でしかないんです。見た者はあまりの醜さに失神してしまいますけどね」
 皮肉交じりにクリスは腕を組むとこちらを見つめながら顎に手を置いた。

「どうやら、あなたには私の本当の姿が見えているようです」
 本当の姿。つまり、呪いで他人の目には彼の姿が醜く映っているということなのだろう。しかし、エオノラが見る限りクリスは眉目秀麗な青年だ。

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