呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「何故あなたは私の本当の姿が見えるのですか?」
「私にもどうして侯爵様の本当の姿が見えているのかさっぱり分かりません」

 エオノラは魔力持ちであるといっても、石の声が聞こえるだけ。それ以外の力は持っておらず、他の体験をすることはこれが初めてだった。
(もしこれで魔術師と判定されて魔術院に連れて行かれたらどうしましょう!?)
 一生を鳥かごのような魔術院で過ごす。考えただけでもお腹の底から恐怖が込み上げてくる。

 不安を抱いたエオノラはクリスの様子を窺った。
 彼は思案顔で聞き取れないくらいの声で何かを呟いている。暫くして視線をエオノラに向けると、別の問題に矛先を向けた。
「ところでエオノラ嬢は何故二度も私の屋敷に侵入したのですか?」
 クリスはエオノラが死神屋敷に足を踏み入れた理由が一番知りたいようだ。
 エオノラは誠意を示すために再度謝罪をした。
「勝手に屋敷に入って申し訳ございません。バラの香りがしたので気になって押しかけてしまいました。バラは早春には咲きませんし、育てるのが難しいと聞いています。ですが、ここではバラが咲いていて、しかもとても美しい庭園で、どうしてももう一度来たくなったんです」
 また呪いに関する話に戻って魔術師の疑いを掛けられては大変なので石の音が気になったことは伏せておいた。

 クリスは尚も胡乱げな表情をしていたがエオノラに庭園を褒められて機嫌を良くしたのか少しだけそれを和らげた。
「そうでしたか。大切に育てた庭園をエオノラ嬢に褒めいただきとても光栄です」
 曰く、バラはこの百年で品種改良が進み、多種多様なバラが生まれた。その中からクリスは交配を進め、早春にも咲くバラを生み出したそうだ。

「この庭園には他で見ることのできないバラがまだたくさんありますよ」
 朗らかに笑うクリスの様子を見て、エオノラもつられて微笑みを浮かべた。
 これなら庭園を見て良いか頼んでも問題なさそうだ。このまま上手くいけば石の音が聞こえる場所までスムーズに移動できるかもしれない。

「多種多様のバラを見るのは初めてですし、本当に見事な庭園です。なのでもっと……」
 いろいろと見て回っても? という問いを投げる前に声を呑んだ。

< 33 / 200 >

この作品をシェア

pagetop