呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 ふと、同じ場所に立っていたエオノラの姿が頭に浮かんだ。

 ルビーローズの前で悲哀の表情を浮かべる彼女。初めてルビーローズを見たのならば、この宝石のような美しさに見惚れているはずなのに、彼女は違った。
(あの時、エオノラ嬢は何を思っていたんだろう)
 そこまで考えてクリスは微苦笑を浮かべた。
 一介の令嬢が、悪い噂しか絶えない死神屋敷に単身で乗り込んでくるなんて何か事情があるに決まっている。初めて彼女がここに来た日、その顔には涙の痕があった。
 痴情のもつれがあって自暴自棄でこの屋敷に来たのだと思い、狼の姿で牽制した。途中ハリーを乗せた馬車が来たので逃がす手伝いをしてやったが、その時はもうここには来ないだろうと高を括った。
 ところが数日後、彼女は性懲りもなく逃がしたルートから庭園にやって来た。
 どうしてまた死神屋敷と恐れられるこの屋敷に乗り込んできたのか分からなかった。
(先程ルビーローズの前にいた時は盗みに入ったのだと思い、頭に血が上って威嚇してしまったが、エオノラ嬢はすぐに謝ってきたし、盗もうという素振りも見せなかった)
 結局、何の目的で動いているのかいまいち判然としない。

 不思議なのは、彼女がこちらに冷たい態度を取られていると知っていながらも世話を焼いてくるところだ。クリスからしてみれば理解不能だ。
 しかし、ただ一つ確かなことがある。それはエオノラがバラを心から慈しんでいるということ。その姿を見ていて悪い気はしなかった。
 とはいってもそれ以外の思考がまったく読めず、薄気味悪い。だからこそエオノラに世話をしてもらうことは反対だった。
 これまで通り、回数が減ってもハリーが屋敷に来ればいい。

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