小さな願いのセレナーデ

しばらくすると車が止まった。
窓の外を見るとすぐ、この場所はわかった。さっき話に出た、ラークビレッジのど真ん中だ。

昂志さんが車を出ると「行こう」と手を出す。
私も車から降りると、その出された彼の手を握った。

そのまま彼は、あの場所に歩いていく。
何年ぶりだろうか。楽団時代に先輩のゲスト出演したコンサートを聞きに行ったのが最後。
そして私は一度も立つことが叶わなかった場所。──そう、ラークホールだ。

自動ドアが開いて、私達はロビーに足を踏み入れる。
がらんとした広いロビーの片隅に──小さな人影が、ぽつりと見えた。


「秀機君……」
秀機君が隅のソファーに腰掛けていて、立ち上がると奥には蒲島先生もいた。

二人の元に行くと、昂志さんは頭を下げた。
「わざわざありがとうございます」と。

二人は私と昂志さんを見ながら笑っていて…苦笑いしてるのか微笑んでいるのかよくわからない顔で、何か話しかけようにも、そのまま客席の方に連れていかれた。
客席に続く重い扉を開けると、また遠くに人影が見えた。


「ママー」
「碧維?」

碧維が私めがけて走ってくる。
私も走って碧維の元に。碧維が走ってきた方向には──ユキさん、瑛実ちゃんの姿も見えた。
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