小さな願いのセレナーデ
どう言うことだろう……。訳もわからずキョロキョロしていると、昂志さんが前に現れた。
手にしていたのは──私のバイオリンのケースだった。
「君の為に用意した場所だよ」と。
そして私にバイオリンを差し出した。
「今日は何もない日だ。好きに使って欲しい」と言って。
戸惑う私に、秀機君はバイオリンを変わりに持って、舞台裏に続く道を歩いていく。私も慌てて後ろを追いかける。
「秀機君、あの、なんで居るの……?」
そう聞くと「一番大切な友人を祝いに来たんだよ」と。
「蒲島先生を尋ねたら、ちょうど久我さんが頭を下げてる所だったんだよ」
「……いつ?」
「今日の朝」
「えっ?」
「知らなかったとは言え、碧維君のことも丁寧に詫びていた。先生がドン引きするぐらい」
そう肩を竦ませて言う。
舞台裏に回ると、秀機君は丁寧にバイオリンケースを床に置いた。
「何か急に言われても嘘臭いし、ラークビレッジ所有してんだったら証拠見せろって。ラークホールで弾かせてくれって言ったら了承してくれたんだ。先にアキちゃんを弾かせてあげることを条件にして、ね」