小さな願いのセレナーデ
非常に申し訳ないが……昂志さんの権力を駆使さしていただき、毎年ラークホールで桐友学園音楽教室の発表会を行わさせていただいている。
勿論ホール以外の場所(事務所やバックヤードなど)のメンテナンス日などの、プロの公演の邪魔にならない日程で組んでいる。

このラークホールで演奏する機会は、色々な人に羨ましがられている。おかげでなぜか講師陣もその発表会に参加するようになり……地味に私も、毎年ラークホールの舞台に立たせていただいていたりする。
思わぬ形で、夢が叶っていたりするのだ。


「私も先生の演奏を聞けるのが楽しみです。私は最初で最後だから……」
笑顔だった彼女は、俯いて少し寂しそうな顔をした。
私はしゃがんで─少し苦しくなったので膝をついて、彼女に視線を合わせる。

「大丈夫、また戻ってくるわ」
そう言って、彼女の頭をなでた。

「触っていいですか?」と聞かれたので、彼女の手をお腹に持ってくる。
するとようやく、彼女に笑顔が戻った。
彼女がさする私のお腹は……もう随分と大きくなって、ぼんと付き出している。
出産予定日まで、あと二ヶ月。


そう、私は二人目を妊娠したのだ。
来月の発表会を機に、産休に入る予定だ。
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