小さな願いのセレナーデ
だが隣を見ても、微笑んでこっちを見ている昂志さんの、押さえきれない重圧感。
上品なマダムと言う言葉が似合う、家政婦のユキさんの深々と頭を下げている姿。今にも土下座をしそうだ。

そして何より……彼女の裏に、玉井先生の鬼のような血相が見えた。


「………わかりました、よろしくお願いします」
さすがに、ここで未来ある若者の夢を潰すことはできない。
断るとは言い出せなかった。


「先生!ありがとうございます!」
瑛実ちゃんは、満面の笑みで私の手を取る。

(どうしよう……)
笑顔の彼女とは対照的に、私は嫌な汗が止まらなかった。



レッスンは、瑛実ちゃんの部屋の一部が防音室になっているので、そこで行うことにした。
リビングでも楽器を鳴らしても大丈夫とのことだが、さすがに集中するにはこっちの方がいい。

防音室はグランドピアノと二人が余裕で立っていられる大きさがある。
「少し狭いかも…」と言っていたが、充分な広さだ。

「じゃぁ、少し聞かせてもらっていいかな?」
「はいわかりました。よいしょ…」

瑛実ちゃんはバイオリンケースに手を伸ばす。
私も取り出そうとしたが……ふと見た、彼女の手に、視線が釘付けになった。
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