小さな願いのセレナーデ
瑛実ちゃんの演奏を少し聞かせてもらい、時間が来たのでリビングに居るユキさんと昂志さんに、帰りの挨拶に伺った。
「では失礼しま……」
「送りますよ、先生」
昂志さんが立ち上がる。
何か鼻に付く言い方と、嫌な笑顔だ。
「いや、結構で…」
「晶葉先生、行きましょう!もう少し話がしたいです。あ、お兄ちゃん紀井国屋書店までよろしく」
「あのなぁ…」
「いいでしょほらほら、先生も。じゃあユキさん行ってきます」
どうやら瑛実ちゃんは、ドイツ語の本を買いに洋書が多い本屋へ行きたいらしい。今も専用の塾に通っているのだとか。
彼女に押されて地下の駐車場まで行くと、昨日見た車とは違う車の後部座席に案内される。
勿論隣に座るのは、瑛実ちゃん。
どうやらマニュアル車らしく、カチャカチャッとレバーを引く音がして、車は走り出した。
「先生のお家って、どの辺なんですか?」
「大学の近く。ずっとあの辺なの」
「そうなんですか。学生時代から同じ家なんですか?」
「ううん、子供が産まれてから一回引っ越ししたの。近場で済ませたけど」
そう言うと、「へえ…」と言って何かを考える顔をした。
「あの、お子さんおいくつなんですか?」
「一歳…半ぐらい」
本当は二歳に近いけれど。まぁ間違ってはいない言い方だ。