小さな願いのセレナーデ
「あ、そうだ。ラークホールの公演決定、おめでとう」
「どういたしまして」

秀機君は得意気に微笑んだ。実は数日前、ラークホールでソロコンサートを行うことが決定したのだ。

「すごいね、ソロでラークホールは」
「まぁ、親のおかげだけどね」
そう言って苦笑いしている。「色々子供向けの企画とか、考えるの難しいよ」とも。

このラークホールのコンサートは、秀機君の父親の広告会社が制作協力している。そこが子育て世代をターゲットにしたSNSの運営を行っていて、そことタイアップした企画コンサートらしい。
確かに親の後ろ楯も大きいが、集客力も実力も無ければできないだろう。


「いいなぁ、私も夢だったの。ラークホールでコンサートは」
「あぁ、オケでも無いんだっけ」
「うん、定期公演は芸術ホールの方だったから」

もうきっと私は、表舞台に立つことはできない。
「一回でいいから、立ちたかったな……」
立てる彼が、正直者が羨ましい。


「……じゃぁ、弾く?」
「えっ?」
「ゲストとして参加だったら、いいだろうと思うけど」
「でも……何の実績もない私は無理だよ」

タイアップ企画だから、私が出演するにはそれなりに納得できる理由がいるだろう。
いくら仲が良いとは言え私には『無名の元プロオーケストラの楽団員』以外の肩書きは何もない。
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