小さな願いのセレナーデ
ふと目を覚ますと、真っ暗な部屋に居た。

「あれ?」
「起きたか」
「昂志さん……」

身体を起こすと、昂志さんが座ってこっちを見ている。
状況を確認すると、私はベッドで寝ていて、彼が隣に腰掛けてサイドテーブルでパソコンを操作していた。
サイドテーブルからは、パソコンのモニターの光とランプの仄かな光が漏れている。


「エントランスホールで倒れてたんだよ。薬飲んだみたいだけど、もう大丈夫か?」
「うん、痛みは引いた、大丈夫……」

ぼんやりとした優しい光が、彼の顔を照らしていた。
そっと頭に手を触れて、頭を撫でられる。
彼からは優しい笑みが零れていて──でもそれは、今の私には酷だった。
やっぱり私は、離れようと思うから。

「……すいません、やっぱり瑛実ちゃんのレッスン、続けられません」
「どうして?」
「体が、その、やっぱりしんどくて」
「だったら仕事を辞めればいい」
「それは…」
「辞めてここで暮らせばいい」
「えっ」

驚く私に、金銭的にも不自由はさせないと。碧維の教育にも何不自由はさせない。家事がしんどいならユキさんに任せればいい。
そう言った。
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