No rain,No rainbow
「どうしたの?」

私の手から器を取り上げた律さんは、そのままローテーブルに静かに器を置いた。

そうして今度は、優しく私の手を握ってくれた。

何度となく、握られる右手は最初に触れた時から変わらぬ温度で。

「桜井 詩さん。あなたに寄り添って、あなたに寄り添ってもらって、生きていいですか?今日のいち日をオレは一生鮮やかに思い出すはずです」

そこで言葉を区切った律さんは、手をつないだままテーブルをまわって私の横へ。

ふわりと抱きしめられる。

ここに無駄な言葉はいらないのだと、再認識させられる。

すべてを受け入れて、すべてを受け入れてくれる。

お互いがお互いに寄りかかって、はげまし合いながら、生きてゆく。



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