愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「その手を離しなさい!」
聞こえた声と同時に木の壁が一瞬の突風で飛ばされ雨が中に入り込んできた。
「時親様・・・」
雨に濡れた彼の姿を見つけた途端、私は緊張から放たれ涙がこぼれた。
「時親殿、よくここまで来ることができましたね。
でもそこまでです」
そなたの父上には本当にいろんな意味でお世話になりました。
今からそのお返しをさせていただきます」
なに、訳わかんないこと言ってんの、この人。
私は背中で手を掴まれ、智徳法師に羽交い締めにされた状態で動くことすらままならない。
「さあ、時親殿が私になにかしようと少しでも動かれると、この可愛い姫君がどうなるか・・・。
そうだ、この姫君とここに潜り込んでいる小さな鬼の子を一緒に・・・」
そう言うと彼は持っていた刃物で私の前髪をかすめるようにすると、パラパラと髪が落ちた。
本物・・・?
と同時に背筋がぞっとする。
「紫乃っ!」
「思っていたよりも動揺されて・・・、時親殿らしくもない」
嬉しそうに智徳法師が言うと袖を翻し、私を隠すようにしたかと思うと目の前が真っ暗になった。
「紫乃っ!」
そしてその場から離れてしまったのか、時親様の声が遠い。