愛しの君がもうすぐここにやってくる。
連れて来られた場所は外、雨は降り続いている。
ただでさえ重い着物が雨を含んでしまって余計に重たい。
自由に動けない。
さっき目の前が真っ暗になって、それから。
あたりを見回し確認するがさっきいた小屋の外でもなさそう。
木が生い茂り、まるで林か森の中か・・・。
「鬼の子の気配があるところまで移動したのですよ。
時親殿の大切なものをまとめて片付けたらどんな表情を見せてくれるのでしょうね」
このひと、狂ってる。
雀躍が知徳法師も陰陽師とか言ってたけど、時親様とは大違いだ。
(紫乃様・・・)
微かに聞えた声。
だれ?桔梗さん?
周りを見るけれど、誰もいない。
(紫乃様、私が念を飛ばして時親様を誘導しています。
もうすぐ来られます、ご安心ください。
私は今からこの近くにいる雀躍を探しに参ります)
草むらから声が聞こえてる?
声の方向を見るとかさっと音がして金色の尻尾のようなものが一瞬見えた。
やっぱり桔梗さんだ。
桔梗さんが実は狐だったってことにはじめは驚いたけれど、ここまで不思議なことに巻き込まれてしまったら、桔梗さんが狐だったってことも別に驚くことでもないのかもしれない。