政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
疑問を持ちながら、唐揚げを咀嚼する。無言の空間に気まずくなってきた私は会話をしようと

「嫌いなもの、ないんですよね?今日のご飯も口にあえばいいのですが」
「ないよ。すごく美味しい」
にこりともせずそういうものだから、胡乱げな表情で彼に視線を流す。
「めちゃくちゃ美味しい」
「…そうですか」

一応は私の真意を汲み取っているようで、“すごく”から“めちゃくちゃ”という彼にはあまり似つかわしくない言葉を使った。

「本当に好物とかないんですか?」
「ない」

即答する彼に苦笑しつつ一か月彼と過ごして分かったこととしては、仕事以外はほとんど興味がない。

だから好きな食べ物も嫌いな食べ物もないのだろう。朝食だって『あー、パンでいいよ』というものだから、近所の有名なパン屋に行って美味しそうな食パンを購入してきた。すると彼はそれをそのまま食べ始めた。
それなりに値段の張るイチゴジャム、カシスジャム、バターなど用意していたのにそれらに興味を示すことなく口に含む。『何もつけないで?』と若干引く私に構わず『別に胃に入れば一緒だから』という独特の価値観をぶつけてくる。
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