政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
朝から胃の奥が重いのは緊張のせいだ。大学卒業後も親の営む旅館の仕事をしていた。その後すぐに結婚をしたから“外に出て働く“ことを経験したことがなかった。

 目の前にいるのはマネージャーの遠野さんだ。40代前半くらいの不愛想な男性だった。
目の下のクマが酷いから睡眠不足なのかもしれない。彼も私がこのホテルを経営している副社長の妻だということは知らない。


 事前に借りていた清掃用の白い制服にグレーのエプロンをつけ、髪型も高い位置でポニーテールにしている。やる気はあるということをアピールするために普段よりも口を大きく開けて返事をする。自然に声も大きくなる。

「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい」

 隣にはペアを組むことになった山内さんがいた。山内さんは私と同い年くらいで目元にほくろがある女性だ。そのほくろのせいか妖艶な雰囲気があった。身長も160センチくらいだろうか。
マネージャーがいなくなるとすぐに清掃道具を持って「行こう」と素っ気なく言った。

 はい、と大きな声を出してやる気があることをアピールするが山内さんは逆にそれが気に入らないようであからさまに“うざい”という顔をした。
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