政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
後ろには斎藤さんが立っていたがキャスター付きのリネンワゴンが彼女の前で倒れていた。

「斎藤さん?!」

 急いで彼女に近づき倒れたそれらを起こそうとするが、取り換えるはずだったタオルやシーツ類が散らばっている。
とにかく早くそれらを片づけなければと思いしゃがみ込むが、「どうかしましたか?」と聞き覚えのある声がした。
 斎藤さんと私の視線が背後に注がれる。

「清川さん…」

 そこには、清川さんがいた。こちらへ向かって歩いてくる。
相変わらず姿勢が綺麗だ。その姿は自信に満ち溢れている。
先ほどは楓君と一緒だったはずだが、彼の姿はなかった。
 斎藤さんが威圧的に言った。

「これはあなたがぶつかってきたからじゃない。本当にいつも仕事は遅いし今日だって体調が悪いってさっき話してなかった?こうやって迷惑かけるなら仕事に来ないでくれない」
「え?ちょっと待ってください。これは斎藤さんが…―」

 長年働いている斎藤さんならば清川さんのことがどのような立場の人間かわかっていたのだろう。
 別に清掃業務でミスを犯したわけでもないのに、彼女は清川さんの前で私を悪者にしたいようだった。

 このような経験はなかった。
それもそうだ、親の経営する旅館でしか働いたことがないのだからこのような嫌がらせに近いことを受けるはずがない。
だからこそ、こういった事態に陥った時の対応がわからない。
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