政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「実は楓さんの忘れ物を届けようと思いまして」
「忘れ物?」
「ええ、私今週は何日かお休みをもらっているので、これを渡す機会がなくて」

 そう言って彼女が紙袋からあるものを取り出した。それは、ネクタイだった。白と青のストライプのネクタイを私の前に差し出す。

「ネクタイ…?どうしてこれを…」
「私の自宅に忘れていたようなので」
「っ…」
「そうだ、確か今月忙しい時期なのに副社長が休暇を二日も取る予定と伺いました。20日は流石に休暇を取られては困る予定があるのですが…」
「そうなんですね…じゃあ、私から言っておきます。」
「それは助かります。では、私はこれで」

 彼女はそれだけ言うと颯爽と帰っていった。
バタン、とドアが閉まり既にいなくなった清川さんの言葉を何度も脳内で再生した。

 ネクタイを彼女の自宅に忘れたということは“そういう”ことなのだろうか。
それとも何か別の事情があるのだろうか。

それに、20日は私の誕生日だ。おそらく彼女の口調から私の誕生日に休暇を取ることを知っていて、業務上それは困るから私から休暇を取らないようにと言ってくれという事だろう。

 清川さんは今月中に秘書を外れるが、それは私にとって”いい情報”ではないのかもしれない。

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