政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
それなりに値段のするホテルでのディナーに行くということで午後からは珍しく念入りにメイクをしていた。

 髪型もハーフアップにしてアクセサリーを付け、小ぶりの花柄のイヤリングをした。

七分丈の白いワンピースを着て全身鏡の前に立つと、普段よりも彼に近づけているような気がして嬉しくなった。
普段はつけないが石鹸のような甘く清潔感のあるお気に入りの香水を纏った。
しばらくすると部屋をノックする音がして返事をした。

「そろそろ出るけど準備大丈夫?」
「うん、化粧もしたよ」

 ドアが開き私は彼のもとに駆け寄った。
楓君は私を見るなりすぐに視線を逸らした。
お洒落をしたが“メイクが濃すぎる”とか“似合っていない”とかであれば悲しい。

お互い無言で気まずい空気が漂う。

「…似合ってなかった、かな。せっかくだからお洒落したんだけど」
「凄く可愛い。ごめん、すぐに言えばよかったんだけど」
「…」

 照れたようにそう言った彼の顔にそれが嘘ではないことは明白だった。
もじもじしながらありがとう、と言ったが声が小さくて相手に聞こえているのかわからない。

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