政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
マンションから出てすぐ目の前にタクシーが停まっている。
事前に呼んでいたようで二人でそれに乗り込みホテルに向かった。

今回行くホテルは西園寺グループとは関係ないようだ。普段は西園寺グループのホテルに宿泊するのに珍しいなと思った。

 外の温度は非常に冷たく、それ故に少ししか外気に触れていないのにも関わらず一瞬で全身が冷たくなる。
タクシーで約20分ほど乗車してホテルに到着した。

「雪が降りそうなくらい寒いね」
「そうだね」

 ホテルに入ってチェックインをしてからディナーをするためにレストランに向かう。今日は絶対に清川さんのことを聞く、そう決めている。

 そのせいかホテルに入ってからも手に汗が滲むほど変に緊張している。
レストランはホテル最上階にあり、完全予約制らしい。
店内に入るとすぐに黒と白色のきっちりした制服を着た女性店員が案内してくれた。窓際の一番眺めのいい席だった。
夜景が広がっており、感嘆の声が漏れた。

「凄い!」
「日和が好きそうだなって思って」
「嬉しい、ありがとう」

 正面に座った楓君も和やかな雰囲気の中笑顔を見せてくれた。

「コースで予約してたけど、他に食べたいものがあれば何でも頼んで。今日は何飲む?」
「ありがとう、えっと…ワインで!」
「分かった」

 すぐに店員を呼ぶと楓君はスラスラと注文をしてくれた。
窓に映る自分と目が合った。
好きな人とこうやって自分の誕生した日を祝う、それがどれだけ幸せなことなのかを噛み締めた。

「日和、」

 注文を終えた楓君が真剣な双眸で私を見据える。
自然に伸びた背筋。
と、突然楓君が表情を変えた。音は聞こえなかったがどうやらスマートフォンに着信があったようだ。

もしかしたら仕事が入ったのかもしれない。
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