政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
ようやく離してくれた時には全身に熱が宿っており、少し前まで手足が冷たくなっていたとは思えないほどだ。
「じゃあ、俺はまた仕事に行くから」
「う、うん。えっと…どうしてあの場に?」
「たまたま車で通りかかったら日和を見つけたから。しかも知らない男と一緒だった」
「知らない男…彼は、松堂君です。この辺じゃ有名なお医者さんの一家で」
「へぇ、そう」
松堂君の名前が出ると和らいでいたはずの空気が一気に張り詰める。そしてそれが私に向けられる。
私は困ったように眉尻を下げて視線を床に落とすが、すぐに楓君は玄関に行ってしまった。
お見送りもできないまま、バタンとドアが閉まった。
初恋の相手とはいえ、彼の考えていることを理解できないのは単に結婚してまだ日が浅いからだろうか。もう少し時間が経過すれば仲良くなれるのだろうか。
そして、その方法はハグで正解なのだろうか。