政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
♢♢♢

「楓君、もう遅刻しますよ!」
「ん、大丈夫」
「ネクタイネクタイ…」
「いいよ。俺が自分でやるから」

 西園寺家に嫁ぎ、一か月が経過していた。
朝から私は薄ピンクの可愛らしいエプロン姿でバタバタと足音を立て、時間を確認しながら楓君を見送る準備をしていた。
その横で特に急ぐ様子もない彼がコーヒーを飲みながら食後のデザートであるフルーツを食べていた。楓君のことは最近ようやくわかるようになってきた。
政略結婚という他とは違う結婚をした私たちにとってお互いのことを知ることから始まる。

 ようやく立ち上がる楓君は、気だるげな目を立てかけられている高級時計から私へ移すと
「そろそろ行く」
と言った。
「わかりました!忘れ物はないですよね?」
「ないよ」

身長185センチ、真っ黒い髪に負けないほどの鋭い眼光、眉目秀麗という言葉は彼にぴったりだ。
仕立ての良いジャケットに袖を通して、濃紺のネクタイを手渡す。それを手慣れたように締めるその仕草毎朝キュンとしていることは内緒である。

 
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