政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

 彼とは政略結婚で今夫婦として一緒にいるが、私の初恋相手でもある。沖縄旅行で迷子になっていた私を助けてくれた彼は私にとって王子様のような存在だった。彼はそんなことは覚えていないだろうが…。

「いってらっしゃい!!」

笑顔で玄関先まで見送る。

 彼の家は主にホテルを経営している西園寺グループであり、名前を聞いて知らない人はいないだろう。
 そんな西園寺家の長男であり、一人息子の西園寺楓との結婚は唐突だった。
私の実家は老舗の旅館を経営していた。関東に何店舗か展開しており、一時期の営業利益は相当なものだった。それは実生活にも直結してくることから幼くても私生活が豊かだったことは感じていた。

 しかしそれも長くは続かなかった。アメリカの投資銀行の破綻から世界的な恐慌に陥りそれは日本も例外ではなかった。煽りを受けた私の実家はいくつかの旅館を閉め、何とか耐えていたが限界が訪れる。
 それを救ったのが西園寺家だった。彼らはホテル経営だけではなく不景気によって倒産しそうな高級旅館を次々に買い取り自らのグループで運営していた。
 両親から『大事な話がある』と神妙な面持ちで言われたことは今でも覚えている。 西園寺家は私の両親が経営する高級老舗旅館が西園寺グループの傘下に入ることを提案してきた。
それともう一つ、それはどうしてか私との結婚も提案内容に含まれていた。

 正直、好きでもない人との結婚については、躊躇した。だが、その相手があの初恋の彼だと気づいた私は心の中でガッツポーズをした。ずっと心の中にいた彼との政略結婚が決まるととんとん拍子に同居まで進んだ。

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