政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
 楓君の部屋に夜に入った経験はないから、内心ドキドキしつつも平然を装い楓君一人では大きすぎるネイビーの革のソファに腰を下ろした。
無意識に楓君と距離を取っていたようで彼と私の間に一人分座れるほど距離があった。
それに気づいた彼は私と距離を詰める。

「…」
(近いよ、近い!近すぎるよ。いくらハグをする関係性になったとはいえ…近いよ)

 そうは思ったものの、楓君からバニラの甘い香りがしたことを思い出した私はそんなことを思っていられないとぶんぶんと顔を横に振った。

「どうかした?」
「ううん!何でもない!飲もう!軽くだけど」
「うん。あ、そうだ、今週末出張で一日いないから」
「…あ、そうなんだ。わかった」
「戸締りはちゃんとするように。それから、あの男と俺がいない間は二人であわないように」
「うん…?」

 ワイングラスに赤ワインが注がれる。お酒に詳しくない私はそれがどういったワインなのか何一つ知らない。
 特に彼から説明もなく、私たちは乾杯をして口に含む。
久しぶりのアルコールは一瞬で食道がじんわりと熱くなり血流が全身を巡る感覚があった。

 今週末、楓君は出張で家を空ける。

 寂しいなぁ、と思いながらドラマではこれが浮気のサインだったりするのだろうけどどうしてか絶対に仕事だという確信はあった。根拠を問われても答えることは出来ないが。
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