エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~

「私でいいですか?」

交際の確認のためにその週のうちにふたりで食事にでかけた。平日の夜、限られた時間だったけれど、俺は意中の女性とふたりきりという状況に浮かれた。

「もちろんです」

大手町のテラスのあるレストランは皇居のお濠が見えた。テーブル越しの彼女は少し緊張の面持ちで、やはりとても可愛らしかったのを覚えている。

「結婚を前提に考えていますが、芽衣子さんはいかがですか?」

思えばよほど舞い上がっていたのだろう。結婚の言葉まで口にしてしまったほどだ。芽衣子は頬を染めうつむき、かすかに頷いた。

「喜んでお受けします」

俺たちは結婚を前提に交際をスタートさせた。
清い交際を続け、半年後に無事ゴールインとなった。

芽衣子との交際は月に数回会う程度で、そのほとんどが結婚式の打ち合わせや準備に当てられていた。それでも、ふたりで交わす他愛のない会話が楽しく、彼女の気さくな様子が嬉しかった。

一方で、俺は退屈させていないかばかりが気になっていた。気が利かない性分で、面白いことのひとつも言えない。彼女の兄のように雄弁でもないし、笑顔だって不得意だ。
精一杯微笑んで見せても、会話を試みても上滑りしているように感じてしまう。それでも芽衣子がニコニコしていてくれているのが救いだった。このまま結婚してもいいのだと思えた。

念願の結婚式を挙げ、妻になった芽衣子を初めて抱いた時、幸福でいっぱいだった。
男性経験のない彼女に触れるのは緊張したけれど、特別なことを許される仲なのだという実感があった。

彼女を大事にしていこう。不器用な俺を受け入れてくれる芽衣子。必ず幸せにしよう。

そう誓っていたのに。


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