社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
変わりゆく日常


とんでもないお見合いがあり、怒涛の週末が開けた月曜日。


いつもの通り、会社に到着すると、同期で同じ経理部の、西村優香が嬉しそうに近づいて来た。
こんな時は、いつも彼氏と良いことがあったに違いない。
優香はすごい美人というわけではないが、童顔でふわふわしたところが可愛い女性だ。
守ってあげたくなるところが人気のようだ。
今日もふわふわと柔らかい笑顔で話しかけてくる。

「花梨、おはよう…昨日さぁ、トシ君とお揃いのペアリング買っちゃったんだ…」

「おはよう、優香。良かったね。」

「花梨は、彼氏とかに、あんまり興味ないもんね…週末は2次元の王子様と遊んでたんでしょ…」

「…う…うん。そ…そうだね。」


週末はお見合いしていたなんて、優香に言える訳がない。
しかも、その相手が、社長の葵さんなんて、誰が聞いてもひっくり返るほど、驚くだろう。



暫らくすると、なにやら周りがザワザワとしている。
女性たちが、集まり何かに注目しているようだ。

私も何事かと、皆が見ている方向を見ると…

久我葵社長と、秘書の牧田さんがこちらに向って歩いて来た。
葵さんはもちろん眉目秀麗だが、牧田さんもかなりの美形だ。
その二人が歩いていると、いつも女性たちの視線は釘付けなのだ。


(…ギャーッ、葵さんだよ!!…どうしよう…隠れなくちゃ…)


私は咄嗟に、机の横にしゃがみ込み、頭を押さえて小さくなった。
少し時間が経ち、そろそろ大丈夫かと思い、そっと顔を上げると…



「姫宮花梨さん、君はここで何をしているんだ?…なぜ、しゃがみ込んで頭を抱えている?」



目の前に立っていたのは、葵さんだった。
しかも、片方の口角が上がり、うっすらと冷たい笑みを浮かべている。

…恐怖という言葉しか浮かばない。


「…社長、あの…え…ええと…ちょっと考え事があって…」

「…お前は、考える時に床にしゃがみ込んで、頭を抱えるのか?変な奴だな…」



すると、ブホッと変な吹き出し方をして、横にいた秘書の牧田さんが、フルフルと震えながら笑いを堪えようとしていた。目には涙まで溜めている

葵さんは、何もなかったように話し始めた。

「姫宮花梨さん、今日のお昼休みに社長室へ来てくれ、昼飯も用意しておく。」


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