社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
あなたを信じたい
「葵さん、私はあなたの妻でいても良いのですか?」
突然の私の言葉に驚いたのか、葵さんは目を大きく開き、言葉が止まった。
私自身も、なぜそんなことを聞いてしまったのかと驚いたくらいだ。
しかし、葵さんは私の両手を自分の両手で包むように握った。
「花梨、他の誰かが何を言おうと、俺の妻はお前だ。一度決めた約束は守る。」
葵さんは、私の目をしっかりと見て言ってくれた。
その表情は嘘を言っていないと思う。
たとえ愛という形ではなくても、俺の妻は大切にすると言ってくれた葵さんを、もう一度信じたい。
もう少し、葵さんのそばで頑張る覚悟ができた。
すると、葵さんは急に思い出したように話し始めた。
「花梨、今日の夜は、桐ケ谷美和と、うちの会社が契約する新しいブランドの、お披露目のパーティーが開かれるんだ。花梨も出席してくれるか?」
仕事とはいえ、桐ケ谷美和と顔を合わせたくないが、葵さんの妻として役目を果たしたい。
もう葵さんからも、桐ケ谷美和からも逃げたくない。
「…わかりました。出席します。」
パーティー会場となるホテルに到着すると、私のドレスや、パーティーで必要なものは、葵さんが全て用意してくれていた。
ドレスは淡いクリーム色で、背中が大きめに開いている、少し大人っぽい感じでとても素敵だ。
ヘアーメイクも、プロのメイクアップアーチストを手配してくれていた。
プロの人にメイクをしてもらうのは、初めてで、ドキドキする。
ホテルに到着するまでは、緊張していた私も、ヘアメイクを済ませた自分の姿が、あまりにも別人で、少し緊張が和らいだように感じる。
鏡に映る私は、見たこともない別人で、いつもより自信がもてそうだ。
まるで、仮面をつけて武装している気分だ。