社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。

私は思わず車椅子に乗る葵さんを抱きしめていた。

葵さんは優しく頭を撫でてくれる。


「花梨、もう大丈夫だ。…恐い思いさせて悪かったな…でも無事でいてくれてよかった。花梨が連れ去られたと、牧田から連絡が入った時には、心臓が止まるかと思ったよ…」

「…葵さん。来てくれてありがとうございます。」

「花梨、何があっても俺はお前を守るからな。」

「はい。」


葵さんの腕の中は温かく安心する。
私もどんなことがあろうとも、この人を信じたい。




しかし、これで全てが終わった訳ではなかった。

秘書の牧田さんは真面目な顔で、話を始めた。


「このままでは恐らく、この事件も桐ケ谷喜一郎が警察に手を回して、握りつぶすに違いありません。でも、私も手を打ってあります。」


牧田さんの言った言葉は、その翌日に意味が分かった。
テレビ等のマスコミが一斉にスクープを出したのだ。

桐ケ谷喜一郎が、姪にあたる桐ケ谷美和のために、企業へ手を回したこと。
そして、桐ケ谷美和の作品として発表されたデザインも、他のデザイナーのものだったこと。
さらには、今回の私の拉致事件も取り上げられた。

デザインの妖精とまで言われていた、桐ケ谷美和もこの報道で、悪女と言われるまでになっている。

そして、久我葵社長への未練が断ち切れない事も、マスコミは調べたようだ。

少し可哀そうにも思ってしまうが、自分の招いた事で、自業自得なのだろうか。



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