社長と同居しているだけです。結婚に愛は持ち込みません。
あなたへの想い

翌日、葵さんの病室で一緒にテレビを見ているとき、桐ケ谷美和の事件が報道された。
私は慌ててテレビのチャンネルを変えようとしたが、葵さんがそれを止めた。


「花梨、俺に気は使うな…俺にも責任があることだ。しっかりと見ておかないとな…」

「…はい。」


その報道は、事件のことはもちろんだが、葵さんと桐ケ谷美和が以前に恋人だったと報道している。
どこから見つけたのだろうか、学生の頃に二人が寄り添っている写真も報道された。


昔のことと分かってはいても、桐ケ谷美和と葵さんが親しくしている写真は、胸が痛い。

自然と目をそらし、俯いてしまった私は気づかれていたようだ。


すると、葵さんが私に手招きをして、ベッドの横に座れとベッドをポンポンと叩いて見せた。

私は意味も分からず、ベッドの横に座った。

すると、葵さんは私の肩を掴んで自分のほうに振り向かせた。


「…葵さん?」


葵さんの名前を言い終わる前に、言葉が遮られた。
葵さんの端正な顔が近づいたと思った次の瞬間、葵さんの唇が私の口を塞いだのだ。


「…ん…ん…っん」


声を出そうとするが、葵さんの唇で話ができない。
葵さんの唇の柔らかい感触…。

そして、息ができず窒息しそうになった時、葵さんの唇が離れた。


何が起こったのか、理解できなかったが、どうやら葵さんとキスしてしまった。


私のファーストキスだ。



「…葵さん!なんで…」



すると、葵さんは少し悪戯な表情で微笑む。


「花梨がこんな報道で心配するのが嫌だったんだ。俺は花梨のことが…」


突然、葵さんの言葉が止まった。
どうしたのだろうと、思っていると、少し照れくさそうに話し始めた。


「花梨、どうやら俺のほうが契約を守れないようだ。」

「…契約ですか?」

「…あぁ。結婚に恋や愛は持ち込むなと自分で言っておきながら、どうやらそれが守れそうもない。」

「…それは、どういうことでしょう?」

「花梨、お前はこういう事に本当に鈍いな!気づけよ!俺はお前を愛している。」



顔を赤くしている葵さんを見て、ようやく意味が分かった。
気が付いたら、急に恥ずかしくなり、顔が爆発しそうに熱くなる。


「…あっ…あの…私…飲み物でも…買ってきますね…」


私はその場に居ることができず、葵さんの病室を飛び出した。




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