ムボウビハート



 「で、どうして泣いてたの?」



あらたを窺いながら、問い掛けた。



「…んぁ?テレビを観たんだよ。病気の旦那を看病してる、奥さんのドキュメンタリーで。」



座り込んだまま、自分の膝に肘をついて、その手の先に顎を乗せてあたしを見つめながら、静かに喋り出したあらた。



「旦那がさ?段々記憶を無くしていって、最後は奥さんのこともわからなくなって。でも、奥さんは献身的に旦那の介護をして看取るんだけど。」



そこで、コトバを切ったあらた。



「…あらた…?」



後ろ向きにあたしを抱き寄せて、頬を寄せたあらた。




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