愛を教えて欲しくない
いきなり体育館中にパチパチと鳴り響いた拍手と高めの歓声に、いなかった意識が呼び戻された。
遠い意識の中で聞こえた私を夢の中へ誘っていたゆっくりとした喋り声とまばらな拍手はどこへやら。
突然聞こえた歓声と素晴らしい演奏でも聴きましたと言わんばかりの大きな拍手に体がビクリと跳ね上がった。
天井にぶら下がったたくさんの電球の光に慣らすように、突然暗闇から開放された瞼を擦って、周りの視線を集める舞台を凝望する。そして、マイクを持って「首席の生徒代表の言葉です」と説明を施した教師の隣に立っている男子生徒の姿にギョッとして、勢いのままに右に首をひねった。
隣が空席だった謎が解けて、サスペンスドラマのクライマックスで犯人が明らかになったときのような開放感に包まれた。
そういえば、ニコニコと顔を綻ばせながら、首席で合格したんだ、と報告されたような気がする。
どこの高校にしたのかと聞けば、「秘密」と言って口角を上げ、頑なに教えてくれなかった理由もこのためだったのなら納得がいく。
恐らく、言ってくれてもよかったのにと文句を言っても、びっくりさせたかったから。とか素っ頓狂な答えがかえってくるんだろう。
つい、3ヶ月前のあいつとの会話を思い出しながらうだうだと考えていたら、首席による生徒代表の言葉が終わりを迎えようとしていた。
「改めて、これから3年間よろしくお願いします。」
と一礼をし、顔を上げてくるりと左を向いて歩きだすとまたしても上がった控えめな歓声。それにひっそり耳を澄ましてみれば、その声の主はほとんどが女子だったことに気づいて、心の中で騙されてるよ、と呟く。
目にかかる程度の前髪からちらりと整った顔を覗かせたあいつは、そのまま目線をこちらに向け、いたずらに成功した少年のように得意げな顔をして、にやりと微笑んだ。