愛を教えて欲しくない

瞬時におネムの脳を巡らせて、この状況をおおかた理解した私はベッドに置いた腕をゆっくりと上げ、唸り声を上げた方に向かって思いっきり腕を叩きつけた。

いったっ、、と低い声で唸った声の出処は"もう、、なに、"と口をもごもごさせながら、私から逃げるようにもぞもぞと布団に潜っていく。

よその家に不法侵入したあげくに家主のベッドに入り込み、気持ちよさそうにすうすう寝息を立てている人間はこいつの他いないであろう。


布団に潜ったことで開放された上半身を起こし、腰には未だ巻かれたままの無駄に筋肉質な腕を切り離そうとバシバシチョップを繰り出すが、ビクともしない。

流石に腹が立ってきた。

慧の手首をグッと両手で掴み、多少の意識のもと抵抗する固い拘束をなんとか振りほどいた。大きなカブを抜いていた動物たちの気持ちがなんとなくわかった気がした。


掴んだ手首を空中でパッと離して腕を落としても全く起きようとしない慧にため息をついて、携帯片手にさっさと寝室をでた。

リビングの時計を見ると、時計の針は長い針も短い針も6の辺りを示している。

引っ越したばかりでまだスカスカの食器棚から、ガラスのコップを1つ手に取り、冷蔵庫を開けた。


こちらもまだスカスカな冷蔵庫の扉のポケットからペットボトルを抜き取って、コップにコーヒーを注いだ。
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