愛を教えて欲しくない
結局、1人の謎は解けたものの、後の2人の謎は迷宮入りのまま、入学式は閉会の言葉を迎えた。
先生に促されながら1組から順に、教室へと向かう生徒の波に乗って歩く。1階から2階へ続く階段を上がっていると、前を歩いているクラスメイトらしき女の子たちの会話がふらりと耳に入った。
「ねえ、首席の男子めっちゃかっこよかったよね!同じクラスだって!」
「かっこよかったー!」
「あれで頭いいとか最高でしょ」
「それなっ!付き合いたいわ〜」
「いやいや無理無理!あのスペックだよ?」
「無理かぁ〜」
「無理だって!高望みしすぎ!笑」
2人で笑い合いながら、そんな会話をしている彼女たちが少し輝いてみえたのと同時にモヤモヤとした黒い感情が現れたのに気づいて、少し首を横に振りながら、視線を下に落とした。
廊下一面に張り巡らされた大きめの四角い木のタイルが汚れで所々黒くなっていて、角が噛み合わさっていないのを見ながら、案外古いんだなこの高校、と気づいた。
流れに遅れを取らないように少し早く歩みを進めると、自分の思考に向けていた意識がうっすらと聞こえていた彼女たちの会話の数個のキーワードにピンと来て、2人の声を拾い上げる。
「後ろで立ってた男子がいてさ、めっちゃかっこよくて〜!付き合いたいー!」
「あいたいた、後ろに。あとめちゃくちゃ美人な女の子も隣にいなかった?」
「あーいたいた!超綺麗だったー!」
彼女たちの言っている、後ろに立っていた美男美女は私が探していた残りの2人でほぼ間違いないだろう。
最初から盗み聞くつもりなんてなかったけど、結果的に盗み聞いた形になっていたことに心の中で一応謝罪をしておく。
知りたかった情報は知れたことだし、と流れたままの左耳から聞こえる音楽に集中しながら、無駄に長い教室までの廊下を生徒の波に流されるように歩き進めた。