愛を教えて欲しくない
自己紹介
2人の着席とほぼ同時にでかでかと書き始めた自らの名前を指さして、むらきよって呼んでいいぞ!と生徒たちに熱く語る村 潔(むら きよし)先生の生い立ちから始まった自己紹介はかれこれ5分は続いている。
いかにも熱血教師な担任のあまりの声のデカさと熱量に鬱陶しくなって、両耳にイヤホンをつけて、胸まである自分の髪の毛で両耳を覆って流れだす音楽に意識を向けた。
私が自分の世界に入ってから3曲分。
未だになにかを話し口をパクパクさせている担任に呆れ始めて、もうこのまま寝ちゃおうか、なんて思ってるときだった。
いきなり圧迫感がなくなった左耳を通して聞こえてきた雑音たちに現実世界へ戻された。
「まなちゃん自己紹介はじまるよ」
私を現実世界に連れ戻した人物の腕をパシッと掴んで、摘まれたイヤホンを取り返してから後ろを振り返って首を傾げた。
「村先生まだ自己紹介してなかったの?」
「ちがうよ生徒の。俺たちの自己紹介」
あと十数分すればもう帰れるだろうだなんて呑気なことを考えていたので、思わず素っ頓狂な声が出てしまいそうになって焦った。
「ふふ今忘れてたって顔した」
だがそんなことはこの幼馴染にはいとも簡単にわかってしまうようで、「お見通し」と呟いて私の髪の毛先を指でクルクル回して遊び始めた。