何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
天音は念のため、華子に付き添われ、救護室に連れていかれた。
外傷はないものの、誰が見ても彼女の様子は、おかしかった。
そして、そこに残された者達は、ただ困惑していた。
「何なのあれは?」
「星羅…。」
星羅は何がなんだかわからず、イライラが止まらない様子だ。
それをなだめるように、りんが彼女の名を呼んだ。
「星羅。早くした方がいいんじゃない?」
すると、かずさはいつも通り、冷静に星羅に向かって言葉を投げかけた。
「なんで、あなたに…。」
「火がついたら、燃え尽きるのは早いわよ。」
「…。」
しかし、星羅はその言葉に反論する事はできなかった。
「なぜだ…。」
そして、辰が奥歯を噛み締めた後、小さく言葉を発した。
天音を助けたのは、確かに京司だった。それは辰だけが知っている事実。
しかし、天音にとって、彼がこんな大きな存在になっていたなんて…。
それは、辰も全く予想のしていなかった事態。
「こんな未来は想像してなかった?」
かずさが無表情を崩す事なく、今度は辰の方を見た。
「天音…。ふり返ってはダメなんだよ。」
すると今度は、城の方をじっと見つめる青が口を開いた。
そう、それは、そこにいない彼女へと向けた言葉。
「ふりかえる?」
青のその言葉を聞いていたりんが、違和感を感じ、思わず声を漏らした。
なぜ、ここに居ない彼女に向かっての言葉を、今彼が口にしたのか、りんには理解出来ない。
「そこに未来はないんだから…。」