何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「やっぱりここにいたか…。」
辰は天音に会いに救護室へ行ったが、そこに天音はもういなかった。
天音がいたのは、ジャンヌの墓の前だった。
「帰ろう。」
「どこに?」
辰の提案に、天音が間髪いれずに口を開いた。
「…。」
振り返った彼女のその瞳は黒く淀んでいて、もう何も映そうとしない。
辰には、それがはっきりとわかってしまった。
「全部燃えた…。家も、家族も、私には何にもない。」
「天音…お前…。」
辰はその言葉を聞いて、大きく目を見開いた。
(まさか、天音は思い出したのか…?)
「全部…失くなった…。何の意味もない…。ここに居ても…。」
「天音…。」
辰は悲痛な声で彼女を呼ぶ。
しかし、その声は、天音には届かない。
「ねえ…お母さん。お母さんは言ったよね。石を探せって。」
「あま…ね…。」
辰は確信した。
天音は過去を思い出したのだ。
なぜなら、彼女がジャンヌに向かって、お母さんと呼びかけたのは、これが初めてなのだから。