何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「でも、石なんてあったって、何の意味もないんだよ。失くしたものはもう戻らない…。」
「な…。」

しかし、辰は言葉を失うしかなかった。

(なぜこうなった…。)

「こんな世界もうどうだっていい!!」

天音が突然叫び声を上げた。
そして天音の目から、涙があふれた。

「全部…偽りの世界なんだから。」

彼女の瞳から流れ落ちる涙が、じわりじわりと地面を濡らしていく。

「ちがう。」

すると、そんな彼女を見かねた辰が天音に寄り添う。

「じゃあ、何を信じればいいの?誰も人なんか信じてないんだよ。ただすがってるだけ。助けてもらったら捨てられるだけ…。」

天音の瞳は悲しみに濡れていた。
彼女は過去を思い出し、全てに対して投げやりになってしまった。
こんな事なら、思い出さなかった方がよかったのか…。
しかし、そう思っても、もう遅い。
時間は巻き戻す事はできないのだから。

「天音。目を覚ませ。」

辰の悲痛な瞳が天音に訴えかける。
全てに投げやりになっては、もともこうもない。

「だって、お母さんは、魔女にされて殺されたんだよ!」

涙で溢れる目が、辰をじっと見つめた。

あの日と同じように…。

「天音…。」

すると、天音は突然立ち上がって、辰に背を向けた。

「…帰るのか?」

辰がその言葉を彼女の背へと投げかけた。
しかし、その背中が全てを語っていた。



「私の居場所はいつも簡単に燃えちゃうんだね…。」



どこへ帰れというのだろう。
もう、この町に居場所などないのに…。

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