何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「よう天音。何してるん?」
天音は、まだ一人でそこに座り込んだままだった。
しかし、そこにみるかの姿はもうない。
「りん…。」
天音は消え入りそうな声で、そこに現れたりんの名を呼んだ。
彼女のその顔には、以前のような笑顔はない。
やはり彼女は変わってしまった…。
そして、その原因も辰から聞いていた。
そんなりんは、なぜか大荷物のリュックを背負っていた。
「わい、ちょっくら行ってくるから。」
そう言って、りんは軽く手を上げた。
(彼はどこかへ出かけるつもりなんだろうか。)
天音は、ぼんやりとそんな事を考えた。
「どこ行くか聞かんのか?」
「…どこに?」
天音はりんに促されて、まるで人形のようにその言葉を繰り返した。
「外や。」
そう言ってりんは、目線を町の外へ向けた。
「天音…。」
そして、りんはその名を愛しそうに呼んだ。
「え…?」
思わず天音は顔を上げ、りんを見た。
りんは真っすぐ自分を見ていた。強い瞳で。
「後悔しても知らんからな!わいと来んかった事!」
そう言って彼は、いつものようにニッと笑った。
「じゃ、たっしゃでなー。」
りんは手をヒラヒラとふり、天音に背を向け歩き出した。
この町の外へ向かって。
雲の切れ間から顔を出した日の光が、彼の背中を照らしていた。